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研究紀要第八輯概要

研究課題
同和問題
論文名
兵庫県姫路地方を中心とする同和問題に係わる戦後の取り組みと差別意識解消に向けた今後の取り組みについての一考察
執筆者
兵庫県立姫路商業高等学校教諭
大垣 輝行
趣旨
長年にわたる国や地方公共団体等が実施した同和対策等の取り組みの結果、同和地区の生活環境等は相当程度改善されてきたが、いまだ根強い差別意識が残っており、身元調査や結婚差別、インターネットへの書き込みなどの人権侵害がいまだに生じている。
また、一方では行き過ぎた同和行政の批判を受ける事件が起こり、同和対策にとって大きな転機となった地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律失効(H14.3末)以後の取り組みのあり方が改めて問われている。本研究ではこのような現状を踏まえたうえで、法律失効後もいまだに残る差別意識を解消するため、今後どのような対策が必要であるのかを検証している。
概要
同和問題に係わる施策の歴史的変遷を戦後の解放運動の流れ、政府の動き、同和対策の支援措置、同和対策事業の「窓口一本化」問題として論述し、その後、戦後の被差別部落の実態と変遷について姫路地方に絞り、地域を代表する地場産業の存続と雇用の問題、地域をめぐる意識の変遷等を通じて、同和対策事業の経済的効果や問題点、改善策等を検討し、教育現場での実践資料を基に同和教育の問題点を分析し、実行されるべき施策を提言している。
構成
  • はじめに
  • 第1章 同和問題に係わる施策の歴史的変遷
    • 第1節 戦後の解放運動の流れ
    • 第2節 政府の動き
    • 第3節 同和対策の支援措置
    • 第4節 同和対策事業の「窓口一本化」問題
  • 第2章 戦後の被差別部落の実態と変遷
    • 第1節 戦後の被差別部落の実態
    • 第2節 被差別部落の地場産業
  • 第3章 同和教育の流れ
    • 第1節 同和教育の始まり
    • 第2節 学力格差
    • 第3節 高校での人権教育の実態
    • 第4節 同和教育の課題
  • 第4章 今後の取り組みの方向性
    • 第1節 教育に求められるもの
    • 第2節 社会に求められるもの
  • おわりに
提言等
あらゆる人々の人権を守っていく礎として、「人権を守っていくための教育」が教育活動の根底に流れるような環境整備が望まれる。
「人権教育教員免許状」制度を創設し、全小・中学校・高等学校に人権教育の専門職として1名以上の人権教育教員を配置する。
各自治体に「人権啓発センター」を新設あるいは増設・拡充し、人権問題に精通した係員を配置し、あらゆる人権問題解決・支援窓口の役割を果たす。
公民館・隣保館・総合センターなどを充実させ、各種社会人学習講座の開設、周辺住民の講座への参加を積極的に促す。
調査対象者への調査の意向・利用範囲を明確にしたうえで、定期的な実態調査を実施し行政施策の効果を把握する。
研究課題
外国人と人権
論文名
在日外国人と共に暮らすための教育方法
-多文化教育としてのアプローチ-
執筆者
兵庫県立湊川高等学校教員
神戸学院大学非常勤講師
方 政雄
趣旨
国際化の進展に伴い、在日外国人登録者数は年々増加し、教育現場では、外国人児童生徒が増え、あらゆる国々の人々と共生をめざす国際性豊かな人間の育成が求められている。しかしながら、日本の社会にあっては、外国人に対して、歴史的な経緯や社会的な背景などにより生み出された偏見や差別が存在し、民族的な自覚や誇りの確立を疎外されている現状がみられたり、いじめ等の諸問題が生じている。このため、すべての児童生徒が互いの人権を尊重し合い、外国人児童生徒と豊かに共生する真の国際化に向けた教育方法として「多文化教育」の視点から論じている。
概要
少子高齢化時代を迎えて、労働力人口の不足を移民に依存せざるを得ないことが予想されている現状で、今後増えてゆくであろう在日外国人との共生について在日韓国朝鮮人との過去の経緯を踏まえ、多文化教育先進経験国として米国・ドイツが多文化教育に行き着く歴史的経過と実態を分析し、人権教育の視点から執るべき成果を考察している。
構成
  • はじめに
  • 第1章 在日外国人の現状
    • 第1節 在日外国人は増加している(特に1980年代後半~)
    • 第2節 在日韓国朝鮮人の減少
    • 第3節 上位4国で在日外国人の80%独占
  • 第2章 少子高齢化社会と外国人移住労働者(移民)
    • 第1節 国連経済社会局人口部の報告
    • 第2節 日本の将来推計人口
    • 第3節 社会のありようとしての多文化共生
  • 第3章 多文化教育としての在日外国人との共生のための教育
    • 第1節 多文化教育について
    • 第2節 多文化教育先進経験国から
    • 第3節 日本における多文化教育の発達
  • おわりに
提言等
少子高齢化社会を迎えて、日本は、外国人移住労働者(移民)政策と法令を整備し、在日外国人と共に生きるための方策を検討する必要に迫られている。外国人に対する偏見や差別のない社会を創るために、在日外国人を第三者とする対象から、ともに生きる市民・社会のパ-トナ-へという意識改革からはじめていく必要がある。
日本の多文化教育を見通すための必要な観点として、①従来の国際理解教育に、多文化教育の視点と要素を導入して再編成すること。②人権教育としての位置づけをすること。③すべての子どもの人権保障として位置づけることが大切である。
研究課題
環境と人権
論文名
自然環境の保全と人権
執筆者
兵庫県立西宮高等学校教諭
石川 照子
趣旨
環境権は、知る権利やプライバシーの権利とともに、「新しい人権」として、広く社会に認知された人権のひとつに数えられるようになっている。しかし、「生命や健康への被害を伴う公害問題が「人権問題」であることは、だれもが容易に理解できるものの、自然環境の保全とその恩恵の享受がどのように人権とかかわっているかは、十分に認識されていないのではないか。このような観点から人が営む日常生活と環境との関わりを人権の視点から考察し、人権にかかわるどのような課題があるかを検討している。
概要
憲法上に環境権規定を持つ国が多くあるなか、日本では憲法はもとより、環境基本法などの法律レベルでも環境権の用語は使われていない。環境訴訟においても、環境権を根拠として認められた例は見あたらない。理念としての環境権が社会的に認知される一方で、なぜ司法的な権利としての環境権は認められないのか。環境権確立の歩みをこれまでの環境権的権利の系譜を通じて論述し、第2章では「豊かな者が破壊し、貧しい者が被害をこうむる。」という環境問題の構造を「環境正義」と「地域主義」という視点から考察している。
構成
  • はじめに
  • 第1章 環境権と人権
    • 第1節 憲法および法律における環境権規定
    • 第2節 環境権概念の系譜
    • 第3節 権利の確立における課題
  • 第2章 環境論理思想と人権
    • 第1節 環境正義
    • 第2節 地球環境主義と地域主義
  • おわりに
提言等
環境権が法的権利として発展していくためには、環境保全に関する参加手続きを制度化していくための法整備が必要であり、環境影響評価法の制定もその流れにあるが、さらに充実させる必要がある。
環境問題の解決方法には、経済的な視点から環境問題の解決を模索するだけでなく、原因の発生や解決方法が環境的に公正であるかどうかという視点も持つべきであろう。
「良好な環境の保全」が、国全体、地球全体の利益と考えられるようになった結果、その保全や管理の仕方について、画一的な方法が適用されがちであるが、自然環境は人間の生活と切り離されて存在するわけでなく、地域ごとに歴史的、精神的、宗教的なかかわりのあり方が存在する。自然環境の保全、開発には、これらの地域住民の意見表明の機会が保障され、地域の日常の営みに配慮される方法を模索されるべきである。
研究課題
企業と人権
論文名
企業の社会的責任と人権
執筆者
コーポレートコミュニケーションアドバイザー
山本 康雄
趣旨
企業はその活動を通して人々の暮らしに大きな影響を与えており、営利のためだけでなく、人権感覚をベースとした社会的存在としての企業活動が求められている。「企業の社会的責任(CSR)」については、多くに企業で取り組みが行われているところであるが、今後のCSRのあり方について人権尊重の視点から提言している。
概要
企業の存立は、常に社会との強い関係性において成立しており、事業活動は、人間尊重の精神が経営理念の中に謳われている。社会と企業の共生を目視す企業の役割は「社会との幸福感の共有を実感できる事業活動を通じて、社会に貢献すること」にある。その結果、企業に求められる行動は倫理行動、人間尊重、環境組成、社会還元の4項目で、その実践こそが社会的責任を果たすことに繋がる。企業をとりまく利害関係者の範囲が社会全般に拡がった現在では、法令遵守、人権尊重、環境への配慮、説明責任が企業の社会的責任の基本となり、そこではリスク管理の充実・不断の努力こそ重要で、マイノリティへの配慮を実践事例と共に考察、「ワーキングプア」問題を「非正規雇用問題」として解決策の実例を挙げて企業の社会的責任を論述している。
構成
  • はじめに
  • 第1章 企業の社会的責任とは
    • 第1節 経営理念
    • 第2節 社会への役割
    • 第3節 企業の社会的責任
  • 第2章 企業と人権
    • 第1節 企業と人権
    • 第2節 マイノリティへの配慮~弱者救済~
    • 第3節 人権と雇用における企業の社会的責任の事例
  • 第3章 人権問題としての雇用問題
    • 第1節 バブル崩壊後の雇用環境の変化
      -歴史的背景(バブル崩壊がもたらしたもの-
    • 第2節 新たな問題:経済格差と雇用
    • 第3節 若年層の非正規雇用問題
    • 第4節 年長フリ-タ-発生の問題点
  • 第4章 若年層の正社員化と企業の社会的責任
    • 第1節 正規社員化へ向けた企業の社会的責任
    • 第2節 フリ-タ-に望まれること
  • 第5章 企業経営者に望むこと
  • おわりに
提言等
労働人口減少社会を目前に控えた日本において、次世代社会を担う人材の国家的資産として、正規にも非正規従業員(フリーター)にも対象者の枠を広げて社内教育の機会の平等化を図り、企業は国の施策であるデュアルシステム(公的教育訓練と企業実習の組み合わせ)による就職支援、常用雇用実現に向けたトライアル雇用への全面的な協力が重要である。
抜本的な正規雇用対策として、企業に対する法的規制、正規化を促進させる税制面での優遇策や奨励金制度の導入等を検討すること。
公正な雇用確保は企業の社会的責任であり、一人前の社会人、職業人としての若者を育成することは、社会の重要な一員である企業の役割である。

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